8.最新のステント治療術について
新東京病院・循環器科部長  中村 淳

 皆さんこんにちは。新東京病院循環器科の中村淳です。

 今回は“心臓病”、とくにその中でも私たちが出合うことの多い疾患である“狭心症、心筋梗塞症”についての話をします。両疾患ともに心臓を養う血管(冠動脈といいます)が動脈硬化などの理由で内腔が狭小化して狭窄、もしくは閉塞により起こるものです。現在世界的レベルでも、この疾患が統計上死因の第1位となっており、私たちが皆さんを守るため、最も闘っている敵といえるものです。

 今回はいくつかの項目に分けて最新の治療までの説明を簡単にしてみたいと思います。
血管が狭くなっている状態
狭いところにカテーテルが入っている状態
カテーテルのバルンが膨らんだ状態でステントが入っている
カテーテルを抜いて血管が広がり、ステントにより固定された状態

1 狭心症と心筋梗塞症の違いは?(図をみてください)

 冠動脈が動脈硬化などの理由で内腔にその硬化巣が突出してくると、いわゆる“狭窄”をつくるわけで、これがその先の心臓を栄養するのに“足りない”状況が発生したとき、これを“狭心症”といいます。

 また、この後にその硬化巣の狭窄が進行し、なんらかの理由(たとえば冠動脈の攣縮)が加わって破綻して血栓(血の塊)がつき、急速に完全に閉塞した状態を急性心筋梗塞症とし、とても死亡率の高い病変となってしまいます。よって、早めに予防治療することが大切です。

2 治療はどうする?(図をみてください)
 基本的には、@内科治療(薬物治療)(これは治すということにはならないことが多いですが)、Aカテーテル治療(図)、B心臓外科による冠動脈バイパス術の3つがあり、患者さんの病態により適切な治療が新東京病院でも選択されます。

 一般的にはA、Bの比率は欧米に比べて日本ではカテーテル治療の比重が高く、カテーテル治療対バイパス術は6対1または7対1になっています。結局現在ある冠動脈の狭窄そのものを解除することを“全身麻酔なしで開胸なしで”施行するのが、カテーテル治療で(図)、その冠動脈の狭窄より先のほうに手術的に他の血管を用いて栄養させてあげるのがバイパス術になります。

3 カテーテル治療とバイパスはどう選択するか?
 医療はあくまで患者さんのものですから、短期的、長期的に患者さんに得になるほうを選択するわけですが、現在両方ともに技術的にはかなり進歩したので、短期的には100%近くまでうまくいくようになりました。

 そもそもバイパス手術というのは一度うまくいくと(とくに新東京病院心臓血管外科のようにうまく手術をしてもらうと)“再狭窄・再閉塞”ということはほとんどないのですが、カテーテル治療は6カ月以内に20〜30%の再狭窄率があり、これがアキレス腱でした。すなわちカテーテル治療は常に“再狭窄”というリスクを背負ってやってきた治療だったわけです。

 ただし、この治療後の再狭窄という病態は一般的には重篤なものではなく、心配されることはありません。病変的にもカテーテル治療の中では難易度の低いものであるわけですが、冠動脈の部位によっては再狭窄がおきてほしくない部位があり、そのときにバイパス手術が選択されてきたわけです。

4 新しいステント治療とは・・・
   薬剤溶出性ステント(Drug-Eluting Stent=DES)
 現在カテーテル治療の中で最も進んだものがこの薬剤溶出性ステント(DES)です。すなわち、これはこれまでに述べた再狭窄がほとんどないステントで、画期的なものです。これによって、かなり冠動脈バイパス手術が減少していくのではと考えられています。

 初期のカテーテル治療だけ成功すれば、その部位は半永久的に悪くなることがないという時代になったということで、患者さんにとってはかなりの福音であると思います。しかしながら、現在でもカテーテル治療をするには難しすぎてできない場合もあり、これから先は今までとは別のバランスで心臓外科の先生達とのコラボレーションを考え、当院心臓血管外科山口部長ととも皆様の健康を守っていきたいと考えています。

DESと医療費について
山 中 鈴 美 

 薬剤溶出性ステント(以下DES)は会報誌32号にて、仙台の横山初江さんが国内初の治療を受けたことでその内容を「免疫抑制剤を塗布し、コーティング剤のポリ乳酸で覆ったステントを冠動脈内に埋め込む。免疫抑制剤は血管内へ少しずつ染み出し、内膜組織の増殖を長期的に抑制、ポリ乳酸は約1カ月で体内に吸収される。術後の再発率は3%程度になると期待されている」と紹介しました。そのDESが今年8月に保険適応になったことで、多くの患者さんの治療を有効にしていくことになります。
カテーテル検査と治療費用(カテーテル1本での計算です)
カテーテルの種類 3割負担 老人1割
カテーテル検査のみ 約7万円 40,200円
ステント 約27〜30万円 40,200円
サイファ(新ステント) 約30〜32万円 40,200円
ロータブレータ・PTCA 約30〜32万円 40,200円
ローラブレータ・ステント 約32〜38万円 40,200円
ロータブレータ・サイファ 約40万円前後 40,200円
※手法などで金額が若干違います。目安としてください
新東京病院医事課提供

 今回、使用が認められたステントはステンレスの上に免疫抑制剤のシロリムスを塗り、一定期間、薬剤が表面に残るようになっており、通常のステントと比べ劇的に再狭窄を減らすとされています。バイパス手術を終えた方にとってどんなときに使うかと言いますと、バイパスが適応になった時点では、大きな狭窄が数カ所にわたり発生していたり、左主幹部の太い血管に心筋梗塞がある場合でした。この場合にカテーテル治療では新たな心筋梗塞の発生など治療中に生命の危険を伴うことが多いとされ外科的に治療を受けたわけです。

 しかし、いったんバイパスで全体の血流が改善された後に新たに、狭心症や心筋梗塞になった場合はその場所に今回の治療が有効になるといえます。バイパス手術時に10年は大丈夫と言われ、10年を経過した方はそろそろ大丈夫なのか? と心配されているかと思いますが、今回の治療でまた安心を得られるのではないかと思われます。

 DESの治療で課題となっていることは、治療後の抗凝固療法です。血管内に異物であるステントを入れると、血液中の血小板が集まり血栓を作り、新たな心筋梗塞を引き起こす可能性があり、血液の塊をできにくくするために抗血小板剤を使います。この抗血小板剤にクロピドグレルという薬が有効とされていますが日本ではまだ承認されておらずDESの治療においては、抗凝固療法を慎重に検討されるべきであるとの注意もあります(クロピドグレルは海外では販売されているが日本では承認に向けて治験段階の薬剤)。

 次にステント治療の医療費についてですが今回はカテーテル全般についても記しておきますのでご参考になさってください。金額は表のとおりです。老人医療の負担は2割では正確には出ませんので、医事課にお尋ねください。東京都の重度心身受給者証を使用の方は治療費での窓口負担はありません。高額医療費の貸し付け制度や委任払いなどの方法もありますので、医事課または医療相談室までお尋ねください。

(2004. 10月、SHINSHIN Report 第38号より)