今日は、私が毎日新聞社の週刊誌「サンデー毎日」で、心臓病と乳ガン・肺ガン・胃ガン・大腸ガンの手術件数が多い病院にアンケート調査を実施し、各病院の症例数や手術死亡率をまとめた結果とその取材を通して感じたことから、「良い病院と医師の選びかた」についてお話ししたいと思います。
ここにおられる皆さんは心臓の手術を受けられた方ばかりですが、今後万一皆さんやご家族の方がガンになられた時に、何かの参考になれば幸いです。
なぜ調べようと思ったか
私がなぜ、病院の手術件数や手術成績を調べて発表しようと考えたかということを、お話し致します。
私はまず、99年の後半から2000年にかけて、『迷ったときの医者選び・東京版・』という本の取材と執筆をしました。これは私も含めて35人のフリーランサーが取材をして、実際に医師の方々に会ってお話を聞き、実力派の医師を厳選しようということで、取材の結果他の先生方より特に抜きんでて優れているわけではないと判断した先生方は、掲載を差し控えました。
この本では、当時新東京病院におられた天野先生を取材させて頂きました。新東京病院に伺ったのはその時が初めてだったのですが、医療関係の雑誌の記者をしていた時から、須磨先生、天野先生、南淵先生という、非常に手術のうまい心臓外科医がおられて、患者を非常に大切にしている新しい病院ということで「新東京病院」の評判はよく聞いていましたので、いつか取材に行ってみたいと思っていました。
この取材の始めに、私はまず先生方に「先生でしたらどういう医師に手術してほしいですか」とお聞きして、先生方同士で医師の推薦をしてもらってメインを選ぼうと考えていましたが、取材では「医師を選ぶ条件は症例数の多い医師と手術成績のよいところが良い」とどの先生もおっしゃるけれども、そういう資料がないということで、先生方はご自分の扱った症例数や手術の結果についてはきちんと教えて下さるけれども、それが本当に良いのか、どのくらい良いのかわからないということでした。そこで、そういうデータを一度きちんと調べてみた方が良いと考えました。
たまたま日本胸部外科学会という、心臓外科や肺外科関係の先生方の大きな学会がありますが、そこでは毎年手術症例数や手術死亡数を集めていることを知りました。それなのに「各病院のデータを公表しないのはおかしいと思わないか」と問いかけてくる先生がおられて、「これからは日本でもアメリカのように、症例数や手術成績を見て患者が病院を選べる時代になるんじゃないだろうか」と話しておられました。
まず心臓血管外科について
そこで、そういうデータが予めあるのならそれを公表できないかと、「サンデー毎日」ではとりあえず心臓血管外科について、年間200例以上の手術をしている国内のトップレベルの病院について、症例数と手術死亡率を調べさせて頂きました。49病院にアンケートを送って40病院のデータが集まりました。
最近厚生労働省が、冠動脈バイパス手術が年間100例に満たない病院の手術料を減額する措置を取ったり、「週刊朝日」で手術症例数が発表されたりという形で、詳細が一般の患者や患者予備軍の目にもふれるようになって来ましたが、昨年私がこのアンケートを実施した時には、症例数を発表するということ自体に心臓血管外科の先生方は驚かれたようで、症例数が少なかったり手術成績が悪かったりする病院はつぶれるんじゃないかと危惧する向きもあったようです。
学会の方では、発表された手術死亡率が、重症患者の多い病院とそれほどでもない病院とがあるのにそれを調整しないで出した数字は問題だとして、データを公表しないようにと学会員の先生方に要請するということもあって、アンケートを集めるのは結構大変でした。
そこで、良い病院と医師の選び方ということですが、症例数が多く手術成績も良いというのは、病院や医師を選ぶ1つの目安にはなると思います。アンケートに答えなかった人もいますが、新東京病院のように正々堂々と症例数や手術成績を公表するということが、まず1つ信頼できる病院の証だと思います。
実は私が手にした200例以上の病院のリストの中に、医療事故を起こして大騒ぎになった女子医大付属病院の資料も入っていて、アンケートには回答がありませんでした。アンケートを実施した時にはすでにあの事件は起こっていましたが、あれほどのことが実際に起こっているとは誰も思わなかったと思います。
あの女子医大の事件を私が知った時に、被害に会われた遺族の方は始めに症例数の多い病院を選んだに違いないのに、症例数が多いということは病院を選ぶ目安にはならないのかと思いますと、今まで私としては「症例数と手術成績を目安に病院選びをした方が良い」と雑誌に書いて来ただけに、少なからずショックを受けました。
私は天野先生や岩手医大の川添先生、また葉山ハートセンターの磯村先生などにもう一度取材をお願いして、「症例数の多い病院を選んでああいう目にあってしまうのでは、患者さんたちは一体どうやって病院を選んだら良いか分からないではないか」と伺いましたが、やはり問題は病院ではなくて医師の症例数ではないかということでした。女子医大で事故を起こして捕まった先生は、個人としての症例数は少なかったそうです。症例数の多い先生なら、予想できないような事態が起こった時にも、その長い経験から適切な対処が出来て、その事故に遭った患者さんの命も救えたのではないかというお話でした。
これは特に心臓外科に限った場合のことですが、医師の症例数で判断して選んだ方が良いのではないかということです。またそれだけでなく、「先生は何回手術をされていて、何人の方が手術が原因で亡くなっていますか」と、その手術成績も聞いた方が良いということと、実際に話し合ってみて医師の人間性というものに触れることも大切だということをお話の中から実感しました。
乳ガン・胃ガン・大腸ガン
次にガンについてお話しします。皆様は心臓外科に関してはすでに新東京病院という立派な病院を選ばれているので、改めて病院選びをする必要はないとお考えだと思いますが、ガンについての調査ではその治療方法が非常にバラバラだということが分かりました。
自分がかかった種類のガンを専門的に見て、症例数が多くて経験豊富な病院を選ぶということも勿論1つの目安ですが、もう1つは、今ガンの治療法は非常に多様化していますので、どんな治療法があるかということを主治医の先生によく聞いて、あるいは自分で本やインターネットでたくさんの情報を得て、自分が受けたい治療の出来る病院を選ばないといけない時代になっていると思います。
心臓病では、手術にするかカテーテル治療にするかという点について、同じ患者に対して医師の意見がよく分かれることがあると言われますが、ガンの治療でも、もし私が乳ガンになって病院選びをしたとすると、A病院では「乳房を全部取りなさい」と言われ、B病院では「乳房を残す〈温存手術〉が出来る」と言われたりします。
心臓病と同じように乳ガンでも、症例数100例以上の病院と、日本乳癌学会で中心的な位置を占めている大学病院について、乳ガンの温存手術と切除手術の割合、またリンパ腺への転移を調べて対処しているかどうかを調べました。
まず温存率ですが、病院によって10.7%から86.4%までと非常に差があることがハッキリしました。温存手術でも切除手術でも再発率や生存率には差が無いということは、アメリカでの比較試験で分かっているのですが、その辺のことが患者にきちんと伝えられていないのではないかと強く感じました。
また乳ガンだけでなく胃ガン・大腸ガンについても、病院によって治療法に非常にバラツキがありました。例えば術後の再発防止のための抗ガン剤治療が行われている病院とそうでない病院とがあります。
胃ガンについては、このバラツキを何とかしようということで、日本胃癌学会から2001年にガイドラインが示され、「標準的な治療とはどういうものであるか」ということが患者向けと医師向けに本になって出ています。そのガイドラインには、術後補助化学療法と言われる再発防止の抗ガン剤治療については、それによって再発を防げたという証拠がないということから、抗ガン剤治療はしなくても良いということになっていますが、実際には調査した病院の八割までが、ステージ1、2、3の段階はいろいろですが抗ガン剤治療をやっていました。
平均在院日数も調べましたが、胃ガンでは平均入院日数15日という病院から、54日も入院している病院があり、大腸ガンでは12日から46.6日までという具合に、病院によって入院させる期間も違えば治療法の選択も違うということで、これではガンの患者さんが大きい病院を紹介されたとしても、自分に合った治療をしてもらえるとは限らないという不安を感じます。やはり病院と医師、手術するなら執刀医のことも、自分で資料によっていろんな選択肢を十分に勉強して病院選びをした方が良いと思われます。
セカンドオピニオンを是非
セカンドオピニオンという言葉を耳にされたことがあると思います。手術を受けられた時にもセカンドオピニオンを受けられたかも知れませんが、ガンの治療を受ける時には、ガンかどうかの診断も含めて、治療方針についてもセカンドオピニオンを必ず受けた方が良いと思います。セカンドオピニオンを受けるためには、自分の検査データを貰わないと次の先生の意見が聞けないわけですが、主治医の先生に対して「セカンドオピニオンを受けたいので検査データを下さい」ということは、その先生に失礼に当たるような気がしてなかなか言い出せない、という方が実際にはたくさんおられます。しかし先生方の間でも「セカンドオピニオンが必要だ」と思っておられる方は増えて来ていますし、それで怒りだすような先生はこちらから辞退したほうがいいと私は思います。
そしてガンの手術を受けることになったときに、執刀医が誰なのかを確認することと、その先生の今までの症例数と去年1年間の症例数、手術死亡率と合併症発症の事例なども含めた手術成績を聞いておくことが必要だと思います。これは心臓手術の場合と同じです。
ガンの手術を執刀する医師の症例数ですが、大学病院などで、執刀する先生が研修医で経験が浅かったり、トップの先生自体にあまり経験が無いようなところはやはり止めた方が良いと思います。
このデータを取っていて驚いたことは、自分の病院で去年どの位の手術をやったのか、手術死亡率や合併症はどうだったのかなどをきちんと把握しているところが意外と少ないことです。これだけコンピューターが進んだ時代に、「カルテをぜんぶ引っくり返さないと分からない」と文句を言うところもあり、意外にデータが整理されていない病院、医師が多いことを痛感致しました。
天野先生が良く言われることですが、外科医というのは自分の過去のデータを、明も暗も含めてきちんと把握して、次の手術に生かして行くことが大切で、そういう先生こそがレベルの高い、信頼のおける医師だと思います。
患者さんの方でもまた、ただ集めるだけが目的のデータというのではなく、一生に一度かも知れない大切な自分の手術のために、できるだけ多くのデータを集めて病院選びの生きた資料となさることをお薦めいたします。これで終わります。 |