血管というと、手や足に見える細い血管を思い浮かべますが、実は人間の体の中はほとんど血管だらけです。大きく分けると動脈と静脈になりますが、我々の診療の対象となるのは動脈です。特に私の専門とする大動脈は心臓の出口から始まり、足の付け根までの一番太い血管を指します。
動脈の病気はそれほどたくさんあるわけではありません。太くなる動脈瘤と細くなる狭窄症、そして血管が裂ける動脈解離です。狭窄症は細い血管に起こるもので大動脈では起こりません。今回は大動脈に起こる動脈瘤と大動脈解離についてお話しします。
動脈瘤
動脈瘤というとすぐ、「あの石原裕次郎の病気ですね」と言われます。確かにそうですが、動脈瘤といっても、発生する場所や形ににより様々です。一概に言うことはできません。動脈瘤は血管の老化現象である動脈硬化が原因となる場合が多いと言われています。つまり、歳をとると誰でもこの病気になる可能性が出てきます。特に、動脈硬化を促進する原因の、喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などを持っている人は要注意です。しかし、どう注意すればよいのでしょうか。具合が悪くなったら病院に行けばいいのでしょうか。
動脈瘤のほとんどは無症状です。ですから、ほかの病気になって病院で検査をした時に偶然発見される場合がほとんどです。逆に言うと、検査をしなければ発見されることはありません。「動脈瘤は無症状」というところがたちが悪いのです。しかも健康診断などで行われている胸部レントゲン検査では、動脈瘤があっても発見されない、見逃される場合が多いのです。
仮に、どこか病院に行って、「動脈瘤が心配なので検査して下さい」などと頼んでも、せいぜい胸部レントゲンを撮られて、心配ないと言われることが多いようです。「わかりました。それでは胸部のCT撮影を行って診断しましょう」と言って下さる先生は僅かです。
では、ここまでして、症状もなく、何の問題もない動脈瘤をわざわざ発見しないといけないのでしょうか。それは、大動脈は通常2−3・なのですが、ある一定の大きさ(5・といわれています)をこえると動脈瘤と呼び、この大きさをこえると血管が破裂する可能性が急激に増大するのです。動脈が破裂すると大出血を起こし、ほとんどの人は助かりません。従って、無症状の動脈瘤を発見し、破裂する前に手術を行うことにより、ある日突然人生が終わってしまうという状況を回避することができるのです。
先ほどの話に戻りますが、どうやって動脈瘤を見つければいいのでしょうか。これは、もう医者を選ぶしかありません。動脈瘤の治療実績のある医師の所に行き、定期的(少なくとも1年に1度)に胸部及び腹部のCTを撮影し、大動脈に異常が無いこと確認してもらう以外に方法はありません。
これと関係のある話ですが、最近は胸部レントゲンだけの健康診断に代えて、胸部CTを健康診断の方法に用いた方が良いという意見が医師の間でも高まっています。保険料の問題ですぐには実現しないと言われていますが、胸部CTをすべての人に行えば、無症状の動脈瘤は今以上に発見されることになるでしょう。
動脈解離
動脈解離も最近非常に増えて来ている疾患です。こちらは動脈瘤とは違って、非常に強い激痛を伴います。それまで全く健康に過ごしていたのに、ある日突然、胸や背中に耐えられないような激痛が走ります。救急車で病院に着くと、循環器の医師が心電図を撮ります。まず、強い胸部痛は心筋梗塞を疑うからです。しかし、心電図には異常は認められません。でも激痛は続いています。循環器内科医は次に、この大動脈解離を疑います。そこで、患者さんの胸部CT撮影を行い、大動脈解離の診断が下されます。いったい何が起こったのでしょうか。
大動脈解離は、簡単に言うと大動脈の血管壁が裂けている状態です。裂けていると言っても、破れているわけではありません。血管壁の内側の膜と外側の膜の間に血液が流れ込み、血管を二重構造にしてしまうのです。分かりやすく言うと、太い管の中に細い管を入れているような状態になっているのです。この病気の機序は非常に複雑ですので、ここでの説明は省略しますが、この病気は重篤な合併症を起こし、非常に高い死亡率を示しています。
動脈瘤や動脈解離の治療
動脈瘤も動脈解離も、薬で予防したり治療することはできません。手術治療が必要です。基本的には、病変のある動脈を人工血管と交換する人工血管置換手術といわれる手術を行います。手術する時期は、動脈解離は発症してからすぐ必要ですが、動脈瘤の場合はきちんと検査を終わらせてから行うのが一般的です。手術は動脈疾患の場所や形態によっていろいろな方法で行われます。手術に必要な時間は胸部大動脈では2時間から6時間程度、腹部大動脈では1時間から2時間程度です。入院期間は手術前の検査期間も含めて、胸部では20日程度、腹部では10日程度です。
終わりに
動脈瘤と言われたことの無い人でも、1年に1度は専門医を受診し、胸部CTを撮影して大動脈に異常が無いかどうかを診てもらうことが必要です。不幸にして大動脈瘤と診断された場合は、動脈瘤手術に多くの実績を持つ専門医を受診し、どのような手術が必要なのか、どのような経過をとるのかということを詳しく聞くことが必要です。そして、その治療内容に納得できたら、大動脈瘤が破裂する前に手術を受けることが大切です。 |